東京高等裁判所 昭和35年(ネ)2202号・昭35年(ネ)1654号 判決
控訴(附帯被控訴)人(被告) 田中織之進
被控訴(附帯控訴)人(原告) 田上旺作
〔抄 録〕
一、被控訴人と控訴人は読売新聞社に共に記者として勤務していた関係で昭和十五年頃からの親しい友人関係にあつたが、被控訴人は控訴人から昭和二十六年七月十二日金五万円、同年十月金二万円をいずれも弁済期の定めなく本件土地を担保に供する約定のもとに借受け、その後昭和二十七年三月控訴人の求めにより右土地の権利証、被控訴人の印鑑証明書及び白紙委任状を控訴人に交付したこと(右金銭及び権利証等の授受の点は当事者間に争がない)を認めることができる。しかして右担保の形式については詳細な約定は十分に明らかであるとはいい難いけれども、前掲各証拠によれば被控訴人は右土地につき控訴人のため抵当権を設定する趣旨で権利証その他の必要書類を渡そうとしたが、控訴人の希望を容れて委任状は白紙委任状とし、控訴人の都合により控訴人においてさらに右土地を担保に供して他より金員を借受けることをも暗黙に承諾したこと、ただいずれにしても控訴人において右土地の所有権を自由に処分し得るものではなく、被控訴人が控訴人に対する債務を弁済すれば当然にこれをなんらの負担のないものとして被控訴人に返還すべきものとされていたことをそれぞれ推認することができる。……しかして、既に述べたように控訴人が本件土地を訴外番場光蔵に売却したことは当事者間に争のないところであるから、他に格別の事実の主張立証のない本件において控訴人は被控訴人の許諾の範囲を超えて擅に本件土地を処分したものといわざるを得ない。
次に証拠によれば、控訴人から右土地を買受けた訴外番場光蔵は昭和三十年五月八日これを訴外野村千足に売渡し同年七月四日その旨の登記を経由し、さらに右野村は昭和三十四年七月これを他に転売したことが認められるところ、控訴人が右土地を訴外番場に売却するにあたりいかなる資格においてしたものかこれを明確にするに足る十分の証拠はないが、前掲控訴人、被控訴人各本人の供述によれば右番場への売買は前記白紙委任状等被控訴人の交付した書類を用いてなされたことが推認されるので特段の事情の認められない限り控訴人は被控訴人の代理人なりとして訴外番場に対し右土地を売却したものとみるのが相当であり、この場合前記白紙委任状等交付の事情からすれば表見代理の適用あるべきことが考えられるのである。従つて他に格別の事情の主張立証されない本件においては被控訴人はもはや本件土地の所有権を回復するに由なく、結局控訴人は前記番場への売却により右土地に対する被控訴人の所有権を喪失せしめ被控訴人に対し右土地の価格相当の損害を蒙らしめたものといわなければならない。
二、そこで進んで損害額につき考察するに、かかる場合損害の額を算定するにあたつては通常損害賠償請求権発生の時、すなわち控訴人が右土地を訴外番場に売却した昭和二十七年三月二十五日当時の価格を標準とすべきものであるけれども、前掲の証拠によれば、本件においては被控訴人は前記控訴人の本件土地の処分を知らずに昭和二十九年秋頃右土地を訴外星子士徳に代金六十万円余で売渡す旨の契約をしたが結局前記控訴人の土地の処分のため右売買を履行できなかつたことが認められるのである。しかしてさきに認定した被控訴人の担保提供の事実からすれば被控訴人が本件土地を他に処分することのあり得べきことは控訴人において予測し得たものとするのが相当であり、また前記控訴人の土地処分当時において地価騰貴の一般的傾向にあつたことに鑑みれば、前記代金額による被控訴人の訴外星子に対する土地の売買は当時控訴人の予見し得べかりし範囲に属するとみるのが相当である。従つて他に格別の事情につき主張、立証のない本件において損害の額は前記認定の事実からして少なくとも金六十万円と認められる訴外星子に対する売買代金額(金六十万円を超えることについては十分の証明がない)によるべきものと考えられる。
なお、被控訴人は右土地の価格の変動に応じ騰貴した価格により損害を算定すべきものとして少なくとも本訴提起当時の右土地の価格にあたる金百三十万円の損害賠償請求権がある旨主張するけれども、さきに認定したように被控訴人は既に昭和二十九年秋訴外星子に対し右土地を売渡すべき契約をしており、控訴人の本件土地の処分がなかつたとすれば、右星子に対する売買が履行されたものとみられ被控訴人がその後の騰貴した価格により処分すべかりしものとは認められないから、単にその後右土地の価格が騰貴したというだけでは、被控訴人主張の時期における価格を標準として損害額を算定すべきものとすることはできず、右被控訴人の主張は採用できない。
(梶村 室伏 安岡)